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【FORTISインタビュー】「菊池亮太」Chapter2 ピアニストであるからこそ、まだ誰も見た事のない境地へ!

直前に迫った「東京オペラシティでのガーシュウィン全曲演奏、また翌年2月には「Bunkamura オーチャードホール」でのソロリサイタルを控えるピアニスト「菊池亮太」、インタビュー Chapter2(後半)では、ピアニストとしてのこれまでの歩み、そしてこれからも挑戦を楽しみに変えて躍進し続ける、果敢だからこその苦難や喜びについて、余すことなくお話いただきました。

>Chapter 1 (前半) はこちら

― それでは後半のご質問へ移ります。前段にお話しいただいたとおり、菊池さんは国立音楽大学付属中等部・高等部を卒業され、日本大学 芸術学部へ進学されたわけですが当時の背景や心境をお伺いします。

菊池:日大への入学に際しては、受験勉強と捉えて勉強に取組んだ期間は殆どなかったと思います。日大を受験すると決めてからも試験までの時間は本当に僅だったので、受かる可能性も低いだろうと思ってたんですね、でも結果は合格でした。日大の芸術学部はたくさんの学科が設置されていて放送学科や映像学科、演劇学科もあります。ピアノに限らず芸術を学ぶ様々な分野の人達が集まる訳で、そういった人達と関わり合いながら音楽を作ってみたい、と強く思いましたね。新たに作曲をしたり、もちろんクラシックの勉強も継続できるだろうと思って。そういった期待があって日本大学の芸術学部に入学する事に決めました。

― ネロ そのような思想は現在の活動においても共通する部分がありますよね、独創的で創造的なアプローチで、どこか客観的で柔軟な視点をもって、でもそういった岐路において決断する際に不安や迷いを感じる事はなかったのでしょうか。

菊池:そうですね、(暫く考え込んで)振り返って考えてみても、なかったのかな。笑 少なくとも王道ではないと思います。やっぱりどこかで柔軟さを、あえて普通ではない、自分らしく、そういった意識はあったのかもしれません。自分自身、今も昔も自分の判断を信じていますし。ただ進学においては、“楽しそう”だったり、たくさんの人と出会える事だったり、本当にそういった純粋な動機が一番でした。

― ネロ ありがとうございます。今お聞きした菊池さんの考え方や原体験って、特に今、自分の進路やその他とても重要な判断に迫られている方にとってきっと参考になるし勇気づけられると思います。

菊池:それは本当に嬉しいですね。自分がピアノを弾いている事で、僕の生き方や振る舞いが何かしらの影響を与えて、それがたくさんの人の力になるのでしたら本当に嬉しい限りです。

― 黎子 ではここでライトなご質問を!演奏の原動力となる食事でお好きなもの、もしくは演奏前に必ず食べる物とかありますか?

菊池:もちろんです。 色々あるんです。カレーとミートソース、そして餃子と。

― ネロ 同じです。やっぱりそうくるとラーメンも!?

菊池:もう大好きですね。あと中学高校の時によく食べていた「すた丼」です。僕の母校の国立音楽大学付属中等部・高等部のすぐそばに第1号店があるんですよ。そこで食べるスタ丼。もう好きな食べ物といえば本当に子供が好むようなメニューばかりです。ライブの前に必ず食べる物やジンクス的なものは特にないかな、当然ですけど演奏の直前にお腹いっぱいになりすぎても支障を来たしますしね。

― 黎子 ちなみに演奏する上で痩せている方と、少し太っている方と、向き不向きはあるのでしょうか。

菊池:それは太っていた方が、 比較的良いのかもしれません。

― ネロ そうなんですね、やはり体重が乗る、みたいな事でしょうか。そもそも音色に違いが出てくる?

菊池:そうですね、音色的には少しふくよかな体系の方がいい気がします。やっぱり体が大きいとそれだけ大きい音が出ます。大きい音を“出しやすい”と言えばいいのかな。僕自身、以前は太っていた時期があって、85キロぐらいあったんですよ。その時は特に工夫しなくても自然と大きい音が出てましたね。一方で今は意識して工夫しないと。まあそれも今までそういった時期を経てからこそ気付いた事ですけどね。25歳くらいの時だったかな、一度ダイエットして30キロぐらい落としたんです。

― 黎子 30キロ減量は凄い、、

菊池:でも“弾きやすさ”、と考えるとそんなに変わらない印象です。ただやっぱり体が軽くなる分、なんでしょう、負荷みたいなものは多少は減ったような、そんな気はしますね。体が軽い分、腕も軽くなるわけで一つ一つの挙動で若干でも違いを感じるんでしょうね。

因みに身体のコンディションの維持という点では、日常的にストレッチを欠かさないことや、やっぱり普段から体の使い方には気を付けていますね。年齢がばれてしまうかもしれないけど、やっぱり10代、20代の時と違って無理をするとそれが体に出てしまう年頃で、笑 ピアノを弾くことだけではなくて、日常的に思い物を持つ時だったり、機材をたくさん運んだりする事だったり慎重になりますね。ピアノってとにかく巨大な楽器で、その巨大な楽器と一体となってたくさんの音を出すわけですけど、自分の体の状態や限界を把握した上で、如何にピアノへ順応できるか、普段から体の使い方っていうのを一つ一つの音毎にマッピングしてないといけないんです。そういった意味では年齢と共に自分に適したものを見つけて確信となって、今は10代、20代の時よりも楽に弾けていると思います。

― ネロ 身体のコンディションは重要で、疲れて疲弊している状態で弾くっていうのはまず避けなきゃいけないという事ですね。でもこれだけの過密なスケジュールだと、全ての演奏をベストコンディションで臨む事が難しくなるのではないしょうか。

菊池:本当に出来るだけそれは避けたいと思っています。ライブの全てが演奏する貴重な機会を頂いている訳で、全ての演奏にベストコンディションで臨めるよう日頃から意識しています。特に気を付けないといけない時期は冬ですね、冬はちょっとしたことで筋肉にダメージがかかるので。 冬は簡単な体操で体を温めて演奏するようにしています。

でも日によってはどうしても調子が良くない日はあります。予防策ではないすけど、自分のルーティンワークとして、朝起きていきなり難しい曲を弾くんですよ。それで上手くいった、いや、今日はここが上手くいかないな、といったように確認するんです。例えばショパンのエチュード、 とか色々ですけど、ウォーミングアップなしに弾いてみてその日のコンディションを把握するんです。そして日によって自分の調子の良し悪しがある事をまずは受け入れて、そのムラを無くすように細かい練習をする。具体的に言うと1回通しの後に悪かった部分を割り出して、その部分を集中的に練習する。それで最後に全てを通して弾いてみて、よし、改善できたと納得して朝ごはんを食べる。

― ネロ それを毎朝ですよね、もはや朝のルーティンワークと単に言えるものではないような、

菊池:確かに、毎朝起きて直ぐの“朝練習”になるのかな、もう自分では当たり前になっていて。もちろんそれでも調子が悪い日もありますけどね。でも大抵はライブ本番では忘れてしまいます。

― 黎子 本番にお強いんですか?

菊池:それが逆といっていいのか、リハーサルまでの調子が良すぎると本番が思うようにはいかなかった、という事が多くあります。例えばリハーサルで良くなかったかもしれないけど、これってさっきご飯食べたばかりからだろう、とか、本番でお客さんが入ったらもっと良くなるだろうって自分で納得して。笑 リハーサルがよかったらよかったで今日最高、って思いますし、何れにしてもポジティブに考えて、必要以上に考えないようにしています。

― ネロ 菊池さん、ピアノ以外に時間を費やすもので、まあきっと殆どすべての事がピアノへ通ずることなのでしょうけど、趣味とか、あえて挙げていただくとして何かありますか?

菊池:ゲームは大好きですね。あとコーヒーも。

― 黎子 今日のコーヒーも飲んでくださいね。

菊池:あ、いただきます!そう、ゲームは本当に大好きです。

― ネロ 好きなゲームは、複数ユーザーでプレイするオンライン系ですか?それとも?

菊池:いえいえ、ゲームは基本はソロプレイですね。ありとあらゆるものをやっていて。もう今年は2ヶ月間で既に2本目のゲームをクリアしようとしていて。

― ネロ 差し支えなければ、今はどんなタイトルをプレイされてるんでしょうか。

菊池:今は「龍が如く8」というのを。

― ネロ !僕も絶賛プレイ中です。

菊池:え!今、何章くらいですか!?

― ネロ もう10章ぐらいです。

菊池:あ、僕今12章くらいです。笑

― ネロ ほとんど一緒ですね。笑 レベルは40ぐらいで。

菊池:あ、僕より高い。笑

― ネロ え、ほんとですか!?

菊池:レベル30、なんか、パーティーが一度別れるじゃないですか?別れて、エリアを行ったり来たりして。いや、もうとにかく面白くて。

― ネロ わかります。

菊池:あと、ゲームの話で言うと、僕、ペルソナシリーズが大好きで。特に4と5

― ネロ ああ、全く一緒です。笑

― 黎子 全然お話についていけません、笑

菊池:すみません。ほんとに。

― 黎子 とんでもないです。それよりも菊池さんとネロさんのご趣味がピンポイントで一緒というのが微笑ましくて。笑

菊池:もうとにかく、めちゃくちゃ面白くないですか?

― ネロ いや、本当にそうです。とにかく面白くて没入しますよね、

菊池:あのゲーム「龍が如く8」は、僕の中で最近1番面白いと思う。

― ネロ 同感です。「龍が如く」はシリーズもので、ちょうどいい間隔で次作が出てくれるんですよね、

菊池:そうなんですね、実は「龍が如く」シリーズは8からなんですよ。でも本当に面白い。ペルソナシリーズもそうですけど、とにかくストーリーがね。いろんなキャラクターが登場して、信頼や裏切りが入り混じって。なんか、本当にすみません、、

― 黎子 いえいえ!ピアノ以外で、凄くハマってらっしゃることがあるっていうのが意外でした。

菊池:ピアノかゲームか、ですね。

― ネロ でもゲーム作品の楽曲をよく取り入れてますよね、特に菊池さんが演奏する「ファイナルファンタジー」の「プレリュード」、個人的に大好きなんです。

菊池:そうなんですね、ありがとうございます。ええ、「ファイナルファンタジー」はスクウェア・エニックスの作品で、実はスクウェア・エニックスさんからご依頼いただいていて。

― ネロ そうだったんですね。

菊池:スクウェア・エニックスさんの公式チャンネルでFFや「聖剣伝説」といった作品の楽曲を弾かせていただいています。本当にこれらの作品も自分自身、大好きな作品なので冥利に尽きます。ゲームをやっていてよかったなって。

― ネロ 演奏を聴かせていただいてそれは伝わってきます。きっとゲーム自体もお好きなんだろうなって。笑 

菊池:やっぱりそうですよね、笑 

― ネロ ゲームからからのインスピレーションというか、ピアノとゲーム、相互的に影響を齎す事も少なからずあるのではないでしょうか。

菊池:もちろん、めちゃくちゃあります。あの、変な話、19世紀の作曲家の人とかって、小説の題材を元に曲を作ったりする事も多かったみたいで。やっぱりインスピレーションの源がそういうものだったと思うんです、今も昔も。それっておそらく単純に音楽以外のある種の娯楽というか、 そういったものにインスピレーションを受けていたんだと思います。短編集とかね。例えばゲーテだったり。まあゲーテは主に戯曲(ぎきょく)の作家ですけどね。

そういうものから得られるインスピレーション、もう少し具体的にお話すると、特にストーリー性のあるものでしょうか。もちろん19世紀はゲームもなければ映画もなかった訳ですけど、そういった何かしらの作品の世界観に身を委ねる、という点では共通すると思うんです。ゲームでいうと自分で育成するキャラクターに自分を重ねて物語を進めていく、その上で展開されるストーリーに直感的に音楽で表現したくなるタイミングは多いですね。

― ネロ なるほど、ゲームと小説や映画との違いで考えると、その名の通り自分で攻略する点なんてまさにインタラクティブで、能動的にそのストーリーに参加する事で体験が生まれて、その体験によって創造性が膨らむ。

菊池:端的に言うとその通りですね。流し見していてもあの人が犯人だとか、あ、この人は実はいい人だったんだ、とかって徐々にわかっていって、やっぱりそうだったとか違っていたとか、そういった楽しみ方とはまた違うんですよね、ゲームの場合は。もちろんそれはそれで楽しいわけですけど、自分で動いて判断しないといけない点で、そこから得られる“感慨”みたいなものがある分、少し違う。どっちがいい悪いではないですけど。ただそれってピアノの練習にも通ずる部分があるんです。ピアノの練習で、例えば難しい曲に向き合う場合、攻略しないといけないわけじゃないですか。どう弾いていいかわからない極端に難しいフレーズだったり、色々と自分の中で一つ一つをクリアしながら、その上でその曲を自分のものにしていくっていう過程がある訳ですけど、それがすごくゲーム的だなって。ゲームで例えれば、レベルを上げて強い敵に挑まないと 負けちゃうじゃないですか。実際それと似てるんです。闇雲に進めることができない、という感じですね。そこはすごく共通する点です。

創造性という意味ではそれらの個別の作品からイメージが膨らむ事はもちろんあります。何らかの印象的なシーンが自分の中に残っていて、そのシーンに紐づくストーリーとセットに自分なりに表現してみたり。ただそれはゲームに限らないですけどね。散歩をしていて見る情景や映画、絵画、写真なんかもそうです。そうですね、例えば自助伝的な曲がありますけど、ある種のフィクションだと思うんです。それはまあ、ノンフィクションの部分もあるけれどフィクションでもある。そう思うんです。

― ネロ 音楽という一つの手段で凝縮し楽曲へと変換する過程において、完全なフィクションである可能性は限りなく低くなると言う事ですよね。

菊池:そう思います。でも特に悪い部分とも捉えていません。創造性があってこその音楽ですし。

― 黎子 菊池さんの時と場所に限定しない演奏スタイルについてお聞きします。特に現在も数多く続けられているストリートライブでは、何か特別な意図や想いなどがあるのでしょうか。

菊池:ストリートは日頃から僕のコンサートや動画、配信を見てくださる方に限らず、そもそも僕の事を知らない多くの人達に聴いていただく場、という認識はありますね。配信やコンサートはある意味、能動的に見て聴いてくださる場合が多いと思いますけど、ストリートでは殆どの人達がそうではない訳で。ただ基本的には僕が好きでやっている、という理由が大きいかもしれません。好きというのは、純粋にいろんな環境でピアノを弾く事です。結局は自分自身それが何よりも好きだという事と、なんでしょう、そこで立ち止まって耳を傾けてくれる事、今まではお互いが知らなかった誰かが聴いてくれている、やっぱりそういった感覚が嬉しいんですよね。聴いてくれている人達のためであり、それでいて自分のためでもあるというか。

それにたくさんの人達に立ち止まって耳を傾けていただいて、そこで コミュニティが生まれるんです。1つのピアノの周りにたくさんの人が集まって、まあ社会人になって同じ楽しみ方で一つの事を共有する機会なんて、そうないじゃないですか。だからこそ、そういった機会を作れているとすれば素晴らしい事だなって。ストリートでは時にはピアノを聴かせ合うこともありますし、慌ただしく道行く人の前で弾くみたいなこともあります。そういう感覚が基本的に好きというか。ずっと前からそうなんですけど、定型的な形だとなかなかモチベーションが上がらないタイプなんです。楽しくないと、ですかね。

― ネロ ストリートでは予期せぬことだって起こりえるでしょうし、仮に演奏プランがあったとしてもそうとはならない事も多いのではないでしょうか。特に海外では一曲だけ演奏して立ち去る事も、リクエストが止まない事もありましたよね。

菊池:そうなんです。そういった様々な事象もストリートの醍醐味ですし、何より自分自身、楽しんでます。演奏時間はその時々で自分で判断してますね。ストリートはその場所に置いてあるピアノを皆で共有する事が殆どなので、暗黙に一人ひとりの演奏時間が決まってるんですけど、海外だと主張が強い人が多くて。結構人によって様々なんですよね、そんな中、その場の雰囲気も加味して自分はどれくらい、と瞬時に判断する事も重要で。

1回につき何分、という縦札が置いてあるわけでもなく、ただただピアノがその場所に置いてあるだけで。そこに何が起こるかというと、時には1人の人が永久に弾き続けるわけです。拍手が来ると周りの人にニコっと笑って、また次の曲を弾き出す。それで永久に続くんです。当然のように弾き続けるので、自分が弾きたい場合は思い切って“次弾かせてもらえる?”って声をかける必要がある。一方、日本では1曲弾いて去るって人が多いと思いますけどね。

― 黎子 そうなんですね、

菊池:それでも、この曲が終わったら次は僕に弾かせて、という感じに声をかけると直ぐに譲ってくれる。なのでコミュニケーションは自分から取りに行かないといけないんです。代わりばんこ、という概念がないんですよね、弾き語りを始めたりする人もいて、周りの人達と歌い始めちゃったりとかね。笑 自由で良いとは思うんですけど、1曲弾いてさっと帰る、みたいなカッコよさのイメージ、特に日本人は強いと思うんですけど、海外はそうではないです。逆に自分で演奏したいっていう、その気持ちを相手に伝えないとなかなか弾けないことが大半で。コミュニケーション能力もとても重要なんです。

― ネロ 国が変わればその国の言葉で話す事が求められるでしょうし、海外でのストリートは演奏以外にも考慮しないといけない点や苦労も多い訳ですね。

菊池:そうですね、会話は基本は英語ですね。フランス語とかはさすがによくわからないんで。でもお互いでリスペクトしている感覚は常にあるんです。話す言葉もそうですし、何かしらお互いで気遣い合うようなやり取りで。

例えば自分の演奏がもしその人にささったら、もう凄く褒めてくれる。特に同じピアニストであれば僕も今この曲やってるんだけど、自分はそんな風には弾けない、だからもっと聴かせてほしい、っていうのをアピールしてきます。お互いで演奏後に「君の方が良かったよ、もっと弾いてくれ」って、「いや、あいつすごいんだよ!」みたいに盛り上げてくれて、周りが盛り上がってくると、演奏者が変わってもどんどん 雪だるま式に盛り上がっていく。お互いでリスペクトしあって讃えてくれる、海外だとそういう感じになりやすいですね。半面、日本はある種、個人主義というか。そこが良いとこでもあると思うんですけど、そういった違いはありますね。

― ネロ ストリートも含めて、ピアニストとして本当に様々な領域で活躍されているわけですけど、その中でも特に思い入れが強く取り組むもの、とお聞きするとやはりライブ演奏でしょうか。

菊池:そうなんですよ。

― ネロ 今後、実現したいライブの形でイメージされているものはあるのでしょうか。

菊池:そうですね、例えばとにかく大きな会場でやりたいっていう欲は、実はあんまりなくて。それよりも、どういう事をやるのか、その内容が僕の中では重要で。YouTubeでのライブ演奏でも、誰かとのコラボレーションでも、こんな風に撮ったら面白そうだとか、この人とこんな弾き方をしたらいい音が出そうとか。ある種、何をやるのか内容重視で考えています。自分の中で何にウェイトを置くのか、頭の中で模索して次はこれだ!というように答えを出し続けています。

― ネロ その答えの一つとして、11月の東京オペラシティでのコンサート、ガーシュウィンのピアノ協奏曲、全曲をいっきに演奏するという前代未聞の。

菊池:そうなんです、今から自分自身わくわくしてますし、一つの目標でもあります。ピアノ協奏曲、ピアノとオーケストラのために書かれた作品を全曲1晩で演奏する っていうコンサートをやるんです。

菊池亮太 ガーシュウィンの世界
2024.11.1 東京オペラシティコンサートホール

例えると、高い山を登るような感覚で挑む事になります。一晩ですよ、一晩。その中には有名なラプソディーインブルーもあるし、ピアノの協奏曲もあるし、セカンドラプソディーだったり、 アイガットリズム変奏曲とかもあって。まあてんこ盛りな訳ですけど、全部を一晩でやるっていうことは本当にできるのか、という、まあ普通に考えて挑戦的な事なんでしょうけど、もちろんやり切ります。まだ歴史的にも、おそらくやったことがある人はいないような事をやろうとしているので、実際どういった結果になるのか。自分自身の好奇心を満たす試みでもあるし、一緒にお客さんに見届けてもらって楽しんでもらいたい。自分の中でのターニングポイントになる日、であるのは間違いないですね。

― ネロ 演奏時間で言うとどのくらいなのでしょう。

菊池:演奏時間で言うと、大きな曲4曲で1時間半ぐらいでしょうか。それでもオーケストラで弾くっていうのはちょっと違うんですよね。ピアノのリサイタルだったら1時間半といっても、まあ普通の長さなんですけど。 オーケストラを背負って、しかもガーシュウィンのオーケストレーションってとにかく厚みがあるんです。常時、分厚い物を背負って弾き続ける感覚でしょうか。

ガーシュウィンの曲って、とにかくいろんなエッセンスがふんだんに散りばめられているんです。もちろんクラシック的な要素もあるし、ジャズ的な要素もあったり。だからこそ譜面通りに弾くだけではなくて、やっぱり自分が弾くからには、ある種そこで終わらないようなものをやりたいなって思っていて。もちろん譜面通りに弾く良さもあるんですけど、やっぱり自分の納得いく演奏をお客さんには届けたい。オーケストラも「タクティカートオーケストラ」という、若手の素晴らしい演奏家たちで。とにかく何よりも当日、見に来てくれたお客さんが感動して帰ってくれたら、それが一番です。

― ネロ いやあ、本当に楽しみです。FORTIS編集チーム一同、当日を楽しみにしています。

菊池:ぜひぜひ。

インタビュー収録後に発表された、2025.2.9 Bunkamuraオーチャードホール ピアノリサイタル

ー 黎子 では最後に、FORTIS読者の皆さんで今、進学や就職など何かの転機をむかえる方や、いろんな迷いや悩みを多くの方が抱えていると思います。ただそう簡単には自分の思うようには生きられない、そういった方達へ、迷わず自分が信じる道へ進めるようにアドバイスをいただいてもよろしいでしょうか。例えば菊池さん自身、挫折しそうな時にどのように乗り越えてきたのか、そういったお話もお伺いできれば。

菊池:やっぱり、人生って楽しい事だけじゃないじゃないですか。おそらく僕みたいに音楽をやっている、やっていないに関わらず。むしろ僕みたいに音楽をやってる人って、もしかしたら自由に生きている、と思われがちかもしれません。でも実際はそうではないんです。当然、職業で括れる話ではないと思うんですけど、要は誰だって生きていれば苦労や迷いの連続だと思うんです。そして一方で誰しも自分にとっての自由、自分にとって楽しい事や想いを馳せるものが必ずあると思うんです。それは一人ひとりが違っていて当然で、誰かに合わせる必要もないし、純粋に追及していけばいい。時には自分が楽しめる事を勝ち取らなければならない事もあるかもしれません。その時はその目標に向かって全力で頑張る。そうやって一つ一つを勝ち取っていく中で、さらに楽しさが生まれて。何かを成し遂げると自信にも繋がるし、勇気が湧いてきます。自分で近い将来をイメージして、今やるべきことは何なのか、自分はどう人生を送っていきたいのかをいつも見据える事ですね。何かの繰り返しに時間を使うのはやっぱりもったいない。目標を決めて苦難があっても乗り越えられるよう時には踏ん張る。でもその積み重ねがあるからこそ自分の人生に納得がいくのだと思います。

あとは、そうですね、自分を褒めるタイミング、というものを細かく設定してあげると生きやすくなるのかな、とも思います。今日はいつもより上手くいった、という風に何か些細な事でもいいんです。それから本当に辛かったら、辞めることも1つの選択肢だと思います。

― 黎子 本当にそうですよね。

菊池:特にここ最近は人によって色んな生き方があると感じています。会社勤めをされている方でも音楽を始めて、もはやメジャーアーティスト以上の発信力を持っている人だってたくさんいるわけじゃないですか。なにがその人にとって幸せなのかは人それぞれで、更にはその時々の取り巻く環境で幸せな方向も常に変化すると思うんですよ。少し前までは音楽だけで生きていく、音楽一本でやっているからこそ音楽のプロ。そういった定説があったように思います。ただ今って別にそんな、音楽やりながら別の事もこなす生き方は全然普通だと思うし、そこに優劣はないと思うんです。そうやって世の中も変化していく訳で、なおのこと自分が幸せになるような道を素直に選んでいくべきだと思います。そうですね、今日お話しした内容や、僕の音楽が少しでも皆さんの参考になって、そして楽しんでいただけたら嬉しいです。

― 黎子 ありがとうございます。きっと読者にも今のお話が伝わると思います。

菊池:そうだと嬉しいです。いやあ、今日は本当に話しやすかった、ありがとうございました。

― ネロ こちらこそ本当にありがとうございました。ガーシュウィンピアノ協奏曲のコンサート、楽しみにしています。

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